NWDAF — 5GCのデータ分析(Network Data Analytics)¶
学習目標¶
この章を読み終えると、次のことができるようになります。
- NWDAF(Network Data Analytics Function) が「ネットワークのデータを分析し、その結果(Analytics)を他NFへ提供するNF」であることを説明できる
- NWDAFが 他NF/OAMからデータを収集 → 分析 → 他NFへ結果を提供 するという営みの流れを図示できる
- 分析の種類を識別する Analytics ID の概念と代表例(スライス負荷・QoS Sustainability等)を挙げられる
- 他NFが Nnwdaf(TS 23.288)を通じて分析結果を Subscribe/Request する関係を説明できる
- Rel-17/18で導入された MTLF/AnLF(ML学習と分析の論理分割)の考え方を概観できる
前提知識¶
- 5GC概要 — 5GCの全体像とNFの役割分担
- SBA(Service Based Architecture)の理解 — NFがサービス(Nxxx)を公開し、他NFが Subscribe/Request する枠組み
- 補助: NWDAF(NF詳細) / 分析結果を使う代表的なNF: PCF, AMF, SMF
この章の焦点
NWDAFというNF自体のカタログ的詳細(サービス一覧・配備形態など)は NWDAFページ にあります。スライスの一般説明は Network Slicing にあります。この章はそれらを踏まえ、「Analytics(データ分析)という営みが5GCで何をするか」 の概念に焦点を当てます。
Why — なぜネットワークにデータ分析が必要か¶
5GCは多数のNFが連携し、スライス・多様なサービス・膨大なUEを扱います。ネットワークを賢く運用するには、「いま何が起きているか」「これから何が起きそうか」を知る必要があります。
- 現状把握 — どのスライスが混んでいるか、どのNFの負荷が高いか
- 予測 — このQoSは今後も維持できそうか、UEはどこへ移動しそうか
- 異常検知 — 通常と違う挙動(攻撃・故障の兆候)がないか
こうした「傾向・予測・異常」の情報があれば、各NFはより良い意思決定ができます。例えばPCFが「このスライスは今後QoSを維持できない」と分かれば、事前にポリシーを調整できます。この 分析(Analytics)を専門に担うNF が NWDAF です。
例え話: NWDAFは「ネットワークの分析官(アナリスト)」です。各部署(他NF)や現場(OAM)からデータを集め、傾向をまとめ、将来を予測し、意思決定者(他NF)に「こうなりそうです」というレポートを渡します。分析官自身は運用を実行しませんが、その助言が運用の質を左右します。
What — Analytics と Nnwdaf¶
NWDAFが提供するのは Analytics(分析結果) です。他NFは「この分析が欲しい」と要求し、NWDAFが結果を返します。この情報のやり取りを規定するサービスベースIFが Nnwdaf で、仕様は TS 23.288(Architecture enhancements for 5G System to support network data analytics services)にまとまっています。
Analytics ID — 分析の種類を指す名前¶
「どの分析が欲しいか」は Analytics ID で識別します。代表例を数個だけ挙げます(網羅ではありません)。
| Analytics ID(代表例) | 何を分析するか | 主な利用先の例 |
|---|---|---|
| Slice Load Level | ネットワークスライスの負荷レベル | NSSF, PCF |
| NF Load | 個々のNFの負荷状況 | 各NF, OAM |
| UE Mobility | UEの移動性(どこへ動きそうか) | AMF, SMF |
| UE Communication | UEの通信パターン(いつ・どれだけ通信するか) | SMF, PCF |
| QoS Sustainability | QoSが今後も維持できるかの予測 | PCF |
| Abnormal Behaviour | 異常な挙動の検知 | PCF, AMF |
Analytics IDは他にも多数
ここに挙げたのは代表例です。実際のAnalytics IDはこの他にも多数あり、正確な一覧・各IDの入出力パラメータは TS 23.288 を参照してください。個別Analytics IDの詳細な仕様値は要確認です。
Subscribe と Request¶
他NFがNWDAFへ分析を求める方法は大きく2つです。
- Subscribe(購読) — 「この分析を継続的に通知してほしい」。条件が変わるたびNWDAFが結果を届ける(Notify)。
- Request(要求) — 「いま一度だけこの分析が欲しい」。NWDAFが1回だけ結果を返す。
負荷やQoSのように状況が変わり続けるものは Subscribe、単発の判断材料が欲しいときは Request、と使い分けます。
How — データ収集から分析提供までの流れ(Architecture)¶
NWDAFは、他NFやOAMからデータを収集し、分析を行い、結果を他NFへ提供します。中心にNWDAFを置いた全体像は次のとおりです。
graph LR
subgraph 収集元["データ収集元"]
AMF_S[AMF]
SMF_S[SMF]
OTHER[他NF]
OAM[OAM
運用監視]
end
subgraph 提供先["分析結果の提供先"]
PCF_D[PCF]
AMF_D[AMF]
SMF_D[SMF]
NSSF_D[NSSF等]
end
収集元 -->|データ収集| NWDAF[NWDAF
データ分析]
NWDAF -->|Nnwdaf
Analytics提供| 提供先
流れを言葉にすると次のとおりです。
- 収集 — NWDAFがAMF/SMF等の他NFやOAMからデータ(負荷・イベント・統計)を集める。
- 分析 — 集めたデータをAnalytics IDに応じて処理し、傾向・予測・異常を導く。
- 提供 — 結果を Subscribe/Request した他NF(PCF等)へ Nnwdaf で返す。
使い道の例: PCFが QoS Sustainability の分析をNWDAFへSubscribeしておくとします。NWDAFが「あるエリアのQoSは今後維持できない見込み」と通知すると、PCFはそれを判断材料に、事前にポリシーを調整(例: ビットレート抑制やスライス側の対応)できます。分析官(NWDAF)のレポートを見て、意思決定者(PCF)が動くわけです。
データ収集元の調整(DCCF)
多くのNWDAFや消費者が同じデータを求めると収集が重複します。これを調整する DCCF(Data Collection Coordination Function) が関わる場合があります。ただし本章では概念として触れるにとどめ、正確な役割・配置は要確認とします(TS 23.288系)。
MTLF と AnLF — 分析とML学習の役割分割¶
NWDAFは Rel-16 で導入されました。当初は「データを分析して結果を出す」機能が中心でしたが、Rel-17/18 で機械学習(ML)モデルを扱う枠組みへと拡張されました。
その中で、NWDAFの内部機能を論理的に2つに分ける考え方が導入されています。
| 論理機能 | 役割(概念) |
|---|---|
| MTLF(Model Training Logical Function) | MLモデルを 学習・提供 する側 |
| AnLF(Analytics Logical Function) | 学習済みモデルを使って 分析(Analytics)を推論・提供 する側 |
イメージとしては、MTLFが「モデルを作る工房」、AnLFが「そのモデルを使って予測を出す分析窓口」です。この分割により、モデルの学習と分析提供を別々にスケール・配備できるようになります。
分割の詳細は概念どまり
MTLF/AnLFの正確な定義位置・提供サービス・相互作用の詳細は版により異なるため、精密な引用時は TS 23.288 で要確認としてください。本章では「学習(MTLF)」と「分析提供(AnLF)」に役割が分かれた、という概念の把握で十分です。
3GPP Specification¶
| 仕様 | 内容 |
|---|---|
| TS 23.288 | Architecture enhancements for 5G System (5GS) to support network data analytics services(NWDAF/Analytics/Nnwdaf) |
参照の粒度
NWDAF・Analytics・Nnwdaf・MTLF/AnLF・DCCFはいずれも TS 23.288 に規定されます(Rel-16導入は確実)。ただしTS内の詳細な節番号、個別Analytics IDの仕様値、MTLF/AnLF/DCCFの正確な定義位置は版により異なるため要確認です。仕様に無い挙動・事業者裁量の部分は実装依存です。
FAQ¶
Q. NWDAFは自分でネットワークを制御するのですか?
いいえ。NWDAFは 分析結果(Analytics)を提供する のが役割で、制御そのものは行いません。結果を受け取ったPCF等の他NFが、それを判断材料に制御・ポリシー決定を行います。NWDAFは「分析官」、制御は「意思決定者(他NF)」の役目です。
Q. Analytics IDはどれだけ種類がありますか?
本章で挙げたスライス負荷・NF負荷・UE移動性・UE通信パターン・QoS Sustainability・異常挙動検知は代表例で、実際にはこの他にも多数あります。完全な一覧と各IDの入出力は TS 23.288 を参照してください。
Summary¶
- NWDAF は5GCで データ分析(Analytics) を専門に担うNF
- 他NF/OAMからデータを収集 → 分析 → 他NF(PCF等)へ結果を提供 する
- 提供IFは Nnwdaf(TS 23.288)。他NFは Subscribe/Request で分析を求める
- 分析の種類は Analytics ID で識別(スライス負荷・QoS Sustainability・異常挙動検知など、他にも多数)
- Rel-16 で導入。Rel-17/18 でMLへ拡張し、学習(MTLF)と分析提供(AnLF)に役割分割
- 例え話では「ネットワークの分析官」。傾向・予測・異常を出し、他NFの意思決定を助ける
理解度チェック¶
Q1. NWDAFの役割を、データの流れ(収集・分析・提供)の観点で説明してください。
NWDAFは他NFやOAMから データを収集 し、Analytics IDに応じて 分析(傾向・予測・異常の導出)を行い、その 結果(Analytics)をNnwdaf経由で他NFへ提供 する。NWDAF自身は制御せず、結果を受け取った他NF(PCF等)が意思決定に使う。
Q2. Analytics IDとは何か、代表例を1つ挙げて説明してください。
Analytics IDは「どの分析が欲しいか」を識別する名前。例えば QoS Sustainability は、あるエリア/条件でQoSを今後も維持できるかを予測する分析で、主にPCFがポリシー調整の判断材料に使う。代表例は他にスライス負荷・NF負荷・UE移動性・異常挙動検知などがあり、全体は TS 23.288 参照。
Q3. MTLFとAnLFの違いを概念レベルで説明してください。
Rel-17/18でNWDAF内部を論理分割した考え方。MTLF(Model Training Logical Function) はMLモデルを学習・提供する側、AnLF(Analytics Logical Function) は学習済みモデルを使って分析を推論・提供する側。学習と分析提供を分けることで別々にスケール・配備できる。詳細は TS 23.288 で要確認。
Next Step¶
- NWDAFというNF自体の詳細は NWDAF(NF詳細) へ
- 分析結果を使う代表例として Policy(ポリシー制御 / PCF) へ
- 分析対象となるスライスの一般説明は Network Slicing を復習
- 関連する運用系の営みとして Charging(課金) も参照