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Roaming — 5GCのローミング(SEPP / N32)

難易度: 中級〜上級 / 想定学習時間: 30分 / 前提: Registration, Authentication / 主役: SEPP, AMF, AUSF, UDM / 主Interface: N32

学習目標

この章を読み終えると、次のことができるようになります。

  • Roaming(ローミング) が「加入者が自国事業者(HPLMN)圏外で提携先事業者(VPLMN)の網を使って通信する仕組み」であることを説明できる
  • 5Gローミングの2方式 LBO(Local Break Out)Home Routed(HR) のユーザプレーン経路の違いを説明できる
  • PLMN間の境界に SEPP(Security Edge Protection Proxy) が立ち、N32 で事業者間SBIシグナリングを中継・保護することを図示できる
  • ローミング時のRegistrationで、VPLMN AMFがSEPP/N32経由でHPLMNのAUSF/UDMへ認証・加入者照会する流れを説明できる
  • 4GのS8/S6a・DEA/IPXから5GのSEPP/N32への進化を説明できる

前提知識

この章の焦点

SEPPというNF自体の詳細は SEPPページ、N32参照点のメッセージ/PRINS詳細は N32ページ にあります。この章はそれらを踏まえ、「ローミング特有の差分(PLMN間、SEPP/N32経由)が5GC全体でどう流れるか」 に焦点を当てます。


Why — なぜローミングの仕組みが必要か

加入者は、自国事業者(HPLMN: Home PLMN)の電波が届かない地域(海外など)でも通信したいと考えます。しかしHPLMNは世界中に基地局を持てません。そこで、現地の提携先事業者(VPLMN: Visited PLMN)のネットワークを借りて通信するのが ローミング です。

ここには2つの課題があります。

  • 加入者情報の確認 — VPLMNは加入者の契約・認証情報を持っていません。HPLMNのUDM/AUSFに問い合わせる必要があります。
  • 事業者間の信頼境界 — 別会社のネットワーク同士がシグナリングを直接やり取りすると、なりすまし・盗聴・トポロジ漏洩のリスクがあります。境界に関所を置いて保護する必要があります。

5GCでは、この関所を SEPP(Security Edge Protection Proxy) が担い、事業者間のSBIシグナリングを N32 で中継・保護します。

例え話: ローミングは「海外で自国の銀行カードを使う」ようなものです。現地のATM(VPLMN)は残高を知りませんが、国際決済網(SEPP/N32)を通じて自国の銀行(HPLMN)に照会し、認証が通れば使えます。関所(SEPP)が両替と本人確認の窓口を守ります。


What — LBO と Home Routed、そしてSEPP/N32

2つのローミング方式

5Gローミングでは、ユーザプレーン(実データ)をどこで外部網へ抜けさせるかで2方式に分かれます。

方式 ユーザプレーン経路 特徴
LBO
(Local Break Out)
VPLMN内のUPFで外部網へ直接抜ける 遅延が小さい。訪問先で直接インターネットへ。VPLMNのポリシー・課金が効く
Home Routed
(HR)
HPLMNまで戻し、自国のUPFから抜ける HPLMNのサービス・ポリシー・課金を一貫適用。V-UPFとH-UPFがN9で連携

Home Routedでは、制御面も V-SMFとH-SMF が連携し、ユーザプレーンは V-UPFとH-UPFN9 で接続されます(TS 23.501)。

どちらを使うか

LBOとHome Routedのどちらを使うかは、対象DNN/スライス・事業者間契約・規制(合法傍受やデータ主権)によって決まります。実装・契約依存であり、一律ではありません。

SEPPとN32

PLMN間の境界には SEPP が立ちます。VPLMN側の V-SEPP とHPLMN側の H-SEPP が対向し、その間を N32 で結びます。

  • N32-c(control) — SEPP間のハンドシェイク・能力交換・保護方式のネゴシエーション(制御用)
  • N32-f(forwarding) — 実際のSBIメッセージ(AMF⇔AUSF/UDM等)を中継する実データ転送用

SEPPはメッセージのフィルタリング、内部トポロジの隠蔽完全性保護/暗号化を担います。保護方式には PRINS(Protection of Roaming and Interconnection Signalling) と、直接接続時の TLS があります(TS 33.501)。


How — ローミングはどう構成されるか(Architecture)

HPLMNとVPLMNが、それぞれのSEPPを境界として向き合います。

graph LR
    subgraph VPLMN[VPLMN 訪問先網]
        UE[UE] --- AMF_V[AMF]
        AMF_V --- SMF_V[V-SMF]
        SMF_V --- UPF_V[V-UPF]
        AMF_V --- SEPP_V[V-SEPP]
    end
    subgraph HPLMN[HPLMN 自国網]
        SEPP_H[H-SEPP] --- AUSF[AUSF]
        SEPP_H --- UDM[UDM]
        SEPP_H --- SMF_H[H-SMF]
        SMF_H --- UPF_H[H-UPF]
    end
    SEPP_V -->|N32| SEPP_H
    UPF_V -.->|N9 Home Routed時| UPF_H

各Network Functionの役割

NF ローミングでの役割
AMF(VPLMN) UEの登録受付。加入者照会・認証をSEPP/N32経由でHPLMNへ中継する
SEPP(V/H) PLMN境界の関所。事業者間SBIをN32で中継し、フィルタ・トポロジ隠蔽・保護を実施
AUSF(HPLMN) ローミング加入者の認証を実施(認証ベクタ処理)。自国側にある
UDM(HPLMN) 加入者情報・認証データの源泉。VPLMNからの照会に応答
SMF(V/H) Home Routedでは V-SMFとH-SMFが連携しPDU Sessionを構成
UPF(V/H) LBOはV-UPFで抜け、Home RoutedはV-UPFとH-UPFがN9で連携

主なInterface

Interface 区間 役割
N32 V-SEPP ⇔ H-SEPP 事業者間SBIシグナリングの中継・保護(TS 29.573、TS 33.501)
N32-c SEPP ⇔ SEPP 制御用。ハンドシェイク・保護方式ネゴシエーション
N32-f SEPP ⇔ SEPP 実データ転送用。SBIメッセージの中継
N9 V-UPF ⇔ H-UPF Home Routed時のUPF間ユーザプレーン接続(TS 23.501)

N14との関係

ローミング中のハンドオーバやモビリティで、AMF間連携が必要な場合は N14(AMF⇔AMF)が関与します。PLMN境界を越える場合はSEPP/N32経由となります。


Procedure — ローミングRegistrationのCall Flow

VPLMNに登録する際、認証・加入者確認はHPLMNが行います。その概略です。

sequenceDiagram
    participant UE
    participant AMF_V as VPLMN AMF
    participant SEPP_V as V-SEPP
    participant SEPP_H as H-SEPP
    participant HN as HPLMN (AUSF/UDM)
    Note over UE,AMF_V: (1) UEがVPLMNへ登録要求
    UE->>AMF_V: Registration Request (SUCI/GUTI)
    Note over AMF_V,SEPP_H: (2) 認証情報をHPLMNへ照会(N32経由)
    AMF_V->>SEPP_V: Nausf 認証要求
    SEPP_V->>SEPP_H: N32-f (保護済SBI)
    SEPP_H->>HN: 認証要求を復元・転送
    HN->>HN: 認証ベクタ生成・加入者確認
    HN-->>SEPP_H: 認証応答
    SEPP_H-->>SEPP_V: N32-f (保護済SBI)
    SEPP_V-->>AMF_V: 認証応答を復元
    Note over UE,AMF_V: (3) 相互認証(VPLMN AMF ⇔ UE)
    AMF_V->>UE: Authentication Request
    UE-->>AMF_V: Authentication Response
    Note over AMF_V,SEPP_H: (4) 加入者データ取得(Nudm、N32経由)
    AMF_V->>SEPP_V: Nudm 加入者データ要求
    SEPP_V->>SEPP_H: N32-f
    SEPP_H-->>SEPP_V: 加入者データ応答
    SEPP_V-->>AMF_V: 復元
    AMF_V-->>UE: Registration Accept

Signal Flow(主要メッセージ)

# メッセージ 区間 意味
1 Registration Request UE→VPLMN AMF VPLMNへの登録要求(SUCI等)
2 Nausf 認証要求(N32-f) V-SEPP→H-SEPP→AUSF 認証情報照会をHPLMNへ中継
3 認証応答(N32-f) H-SEPP→V-SEPP HPLMNからの認証ベクタ/結果
4 Authentication Req/Res VPLMN AMF⇔UE UEとの相互認証
5 Nudm 加入者データ(N32-f) V-SEPP⇔H-SEPP 加入者プロファイル取得
6 Registration Accept VPLMN AMF→UE 登録完了

N32ハンドシェイクが前提

上記(2)以降が成立するには、事前にV-SEPPとH-SEPPが N32-c で接続を確立し、保護方式(PRINS/TLS)をネゴシエーション済みである必要があります。N32-cが張れていないと事業者間シグナリングは通りません。

Home Routed の PDU Session 構成

Home Routedでは、ユーザプレーンがHPLMNまで戻ります。

graph LR
    UE[UE] --- RAN[NG-RAN]
    RAN --- UPF_V[V-UPF]
    UPF_V -->|N9| UPF_H[H-UPF]
    UPF_H --> DN[Data Network
HPLMN側で外部網へ] SMF_V[V-SMF] -.制御.- UPF_V SMF_H[H-SMF] -.制御.- UPF_H SMF_V -.N16経由 SEPP/N32.- SMF_H

EPC(4G)との比較

項目 4G EPC 5GC
ローミング方式 LBO / Home Routed(PGWの位置で決定) LBO / Home Routed(V-UPF/H-UPFで決定)
UP間接続(HR) S8(SGW⇔PGW、GTP) N9(V-UPF⇔H-UPF)
加入者照会 S6a(MME⇔HSS、Diameter) Nudm/Nausf over N32
事業者間境界 DEA(Diameter Edge Agent)/ IPX SEPP
保護 IPsec / IPX契約依存 PRINS / TLS(N32、TS 33.501)
プロトコル Diameter(S6a)/ GTP(S8) SBI(HTTP/2)over N32

5Gの最大の変化は、DEA/IPXという曖昧な境界が SEPP という明示的なNFに標準化され、事業者間シグナリングが N32でトポロジ隠蔽・完全性保護/暗号化される点です。


Release差分

Release 変更点
Rel-15 SEPP/N32導入。LBO/Home Routedのローミング参照アーキテクチャ定義(TS 23.501)
Rel-16以降 N32保護(PRINS/TLS)の明確化、ローミングにおけるスライス連携の拡充

GSMAとの関係

実運用のN32(PRINS運用、IPX事業者経由など)はGSMAの仕様(FS.34等)でも規定されますが、正確な番号・節は 要確認。標準の骨格は3GPP TS 33.501 / TS 29.573が担います。


Trouble Shooting

症状 疑う箇所 確認ポイント
ローミング先で登録できない N32-c未確立 V-SEPP⇔H-SEPPのハンドシェイク、保護方式ネゴシエーション
認証が失敗する HPLMN AUSF/UDM照会経路 N32-f中継、SUCI/加入者情報がHPLMNに届いているか
登録は通るが通信不可 UP経路(LBO/HR)設定 Home RoutedのN9疎通、V-UPF/H-UPFの構成
特定NFの情報が漏れる懸念 SEPPのトポロジ隠蔽設定 フィルタリング/隠蔽ポリシーが有効か(SEPP参照)
メッセージ改ざん検知 N32保護方式 PRINS/TLSの完全性保護設定(N32参照)

3GPP Specification

仕様 内容
TS 23.501 System architecture(ローミング参照アーキテクチャ、LBO/Home Routed、N9)
TS 23.502 Procedures(ローミング登録・PDU Session確立手順)
TS 33.501 Security architecture(SEPP、N32、PRINS/TLS保護)
TS 29.573 5G System; Public Land Mobile Network (PLMN) Interconnection(N32のプロトコル)

章番号の粒度

上記TS番号はローミング領域の主要仕様として確実です。各TS内の詳細な節番号(具体的メッセージ定義位置等)は版により異なるため、精密な引用時は要確認。GSMA仕様(FS.34等)の番号も要確認。


FAQ

Q. LBOとHome Routedはどちらが標準ですか?

どちらも標準方式です。遅延を重視し訪問先で抜けるならLBO、自国のサービス・ポリシー・課金を一貫適用したいならHome Routedを選びます。選択は対象DNN/スライスや事業者間契約・規制に依存します。

Q. SEPPがないとローミングできませんか?

5GCの事業者間SBIシグナリングはSEPP/N32を前提に設計されています。SEPPが境界でフィルタ・トポロジ隠蔽・保護を担うため、標準準拠のローミングにはSEPPが必要です。詳細はSEPPページへ。

Q. N32-cとN32-fの違いは何ですか?

N32-cは制御用でSEPP間のハンドシェイク・保護方式ネゴシエーションを担い、N32-fは実データ転送用で実際のSBIメッセージ(認証・加入者照会等)を中継します。詳細はN32ページへ。


Summary

  • Roaming(ローミング) は加入者がHPLMN圏外でVPLMNの網を使って通信する仕組み
  • ユーザプレーン経路で LBO(VPLMNで抜ける)と Home Routed(HPLMNへ戻す、N9でUPF連携)に分かれる
  • PLMN境界に SEPP が立ち、N32(N32-c制御 / N32-f転送)で事業者間SBIを中継・保護
  • 保護は PRINS / TLS(TS 33.501)。フィルタ・トポロジ隠蔽・完全性保護/暗号化を担う
  • ローミングRegistrationは、VPLMN AMFがSEPP/N32経由でHPLMNのAUSF/UDMへ認証・加入者照会する

理解度チェック

Q1. LBOとHome Routedの違いを、ユーザプレーン経路の観点で説明してください。

LBOはVPLMN内のUPFで外部網へ直接抜けるため遅延が小さい。Home RoutedはユーザプレーンをHPLMNまで戻し、V-UPFとH-UPFがN9で連携して自国UPFから抜けるため、HPLMNのサービス・ポリシー・課金を一貫適用できる。

Q2. SEPPの役割と、N32-c / N32-fの違いを説明してください。

SEPPはPLMN境界の関所として、事業者間SBIのフィルタリング・トポロジ隠蔽・完全性保護/暗号化を担う。N32-cは制御用でSEPP間のハンドシェイク・保護方式ネゴシエーション、N32-fは実データ転送用でSBIメッセージ中継を担う。

Q3. ローミング時のRegistrationで、認証・加入者確認はどのPLMNのどのNFが行い、どの経路を通りますか?

認証はHPLMNのAUSF、加入者確認はHPLMNのUDMが行う。VPLMN AMFからの照会は V-SEPP→N32→H-SEPP 経由でHPLMNに届き、応答が同経路で戻る。VPLMNは加入者情報を持たないためHPLMNへ照会する。


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